二階には、彼女自身のドレスや靴が置かれているシャーロットの部屋のほかに、エミリーの細長い部屋があった。もともとは子ども部屋として使われ、姉妹は多くの時間を読書やかきもの、ゲームなどで過ごしたといわれている。後年にはエミリーの寝室として使われたわけだが、部屋の窓から見おろすと、正面入口前の生け垣の向こう側に、庭が広がっている。ところどころに、つばきやしゃくなげの背丈の低い本がある。そして塀ぎわでは、シャーロットが植えたといわれる二本の松の木が、かすかに風に揺れ動いているのが見えた。その晩は近くにあるファーム・ハウスに泊まることにした。荒野を背にした一軒家だったが、それが、この旅にふさわしいように思えたからである。ファーム・ハウスとは、いわば、農家の民宿である。早起きをすれば翌朝は家族と一緒に、馬や山羊、にわとりなどに餌をやり、気がむけば、農場でトラクターの運転も教えてもらえる。町なかの民宿とは一味違うし、空気もうまい。一軒家は映画「嵐が丘」の農家にどこか似ていた。ゴツゴツしたレンガづくりの家の屋根にある煙突は、暖炉からの煙を吐きだし、寝室の天井には太い梁が何本も渡してあった。ガラス窓を外から覆う両開きの木で出来た風除けも、映画で見たような気がした。ファーム・ハウスは見通しのよい丘にあったので、これで吹雪にでもなれば、道に迷った男ロックワードが一夜の宿を求めにくるはずである。窓の外の荒涼とした風景に、エミリー・ブロンテの詩が重なってくる。「夢見て止まぬはあの荒野びろうどと見紛うみじかき草たちはいつも足もとをくすぐっている夢見て止まぬはあの荒野けわしい小径は日に抱かれ紺碧の空へと続いているあの荒野で古びたみかげ石で紅雀はさんざめく飛んできた野性の雲雀もすべての人の心を歓びで満たしてくれる」